先日、発する言葉に重みがある人がこの世を去った。サッカーの元日本代表監督オシム氏だ。
オシム氏は日本代表監督に就任したとき「日本サッカーを日本化する」という独特の言い回しで話題になった。日本人選手の特徴を生かしたサッカーを目指し、そのためにどうすればいいか真剣に考えていた。
当時、日本の中盤にはスター選手がそろっていたが、世間の評判を鵜呑みにして選手を選ばなかった。それは「水を運ぶ人」という表現でチームに必要不可欠な役割をこなせる選手を重用したことにも表れている。
オシム氏が病に倒れず日本代表監督を続けていたらどんなチームになったかと思うと非常に残念だった。彼が亡くなり改めてその言葉の重みを多くの人が噛みしめている。それは彼に関するあらゆるニュース記事を見てもわかる。
その一方、言葉に重みが全く感じられない人物の発言が報道された。
英国を訪れている岸田首相が講演で「Invest in Kishida(キシダに投資を)」と述べたという。そして、貯蓄から投資への移行を促し「資産所得倍増を実現する」と表明し、少額投資非課税制度(NISA)の拡充などで預貯金を資産運用に回すという。
これまでの金融所得課税の引き上げや自社株買いのガイドライン策定、上場企業の四半期開示の廃止などとは真逆とも思える内容だ。この人は自分で言っていることがわかっているのだろうか。自分で考えて発言しているのだろうか。
市場からの評判が良くないことを意識したのだろう。また、安倍元首相のアベノミクスに倣ったという見方もある。
だが、私が思い起こしたのは民主党政権の鳩山元首相が発言した「トラスト・ミー」だ。「私を信用しろ」という人間こそもっとも信用できない。言葉が軽い人の典型だ。岸田首相はあの鳩山元首相と同じ臭いがする。
海外で発言する前に、なぜ国民有権者の前で言わないのだろうか。結局、海外でいい顔したいだけで、また国内に戻れば有権者が喜ぶようなことを言いだすのだろう。
私はこの人をますます信用できなくなった。
オシム氏の遺した言葉と岸田氏の言葉。
その重みはまったく対照的だ。