決算説明資料などを読んでいると、「成長戦略」「事業戦略」など「戦略」という言葉が頻繁に使われている。企業の経営戦略のみならず、政治でもアベノミクスの3本の矢の一つは「成長戦略」という言葉が使われたし、何か物事を達成するには「戦略的思考」なるものが必要だと思われている。
だが、この「戦略」という言葉はとても漠然としていて曖昧だ。「戦略とは何か」と言われて、明快に答えられる人は少ないのではないか。私もなんとなくこんなことではないかというイメージはあるけど、それを戦略といっていいものかも実はよくわからない。
こうした曖昧さがある中で「戦略」という言葉があちこちで使われる。「戦略」という言葉を使う方も目にしたり耳にしたりする方も、お互いその意味が曖昧なままでなんとなくわかったつもりになっている。しかも「戦略」という言葉はカッコイイ響きを持っているから、使っていると賢く見えるし、意味が曖昧なだけに相手を煙に巻くには都合が良かったりすることもあるのだろう。そう考えれば「戦略」という言葉を使うとちょっと滑稽に見えてくる。
この「戦略」という言葉が気になってしまったのは、ある企業が開示した決算説明資料を読んでからだ。それには「当社の成長戦略」という項目があるのだが、そこに記載されているのは理念やビジョンのようなもので、それを具体化するための方策は特に触れられていない。そして綺麗な図や表はあるのだが、それはその企業が現在やっていることでしかない。理念やビジョンは必要だし重要だ。だがそれを実現するための道筋を示すことこそ重要なのにそれがない。この企業にとって「戦略」というのはその程度のことなのだろう。要するに中身が何もないということだ。中身がないことを「戦略」という曖昧な言葉を使うことで覆い隠しているようにすら思える。
「戦略」という言葉は使い方に気を付けないといけない言葉だ。
アベノミクスでも「成長戦略」という言葉はあったけれど、結局それは曖昧なままだった。「戦略」という言葉が曖昧だからこそ中身が曖昧なままで済んでしまうのだ。逆に言えば、その曖昧さがなく明快でかつ理に適ったものであったなら本当の意味で「戦略」といえるものなのかもしれない。そしてもしそれを示している企業あるいは経営者を見つけたとしたら有望な投資候補となりうるのだろう。