投資狂日記

自由を追求するブログ

停滞ではなくスロー

先日の日経新聞で「経済教室」というコラム欄にカリフォルニア大サンディエゴ校教授ウリケ・シェーデ氏の寄稿した記事が興味深かった。

 

『「ニッポン入ってる」に企業の活路』という題名で、その内容は漠然と頭で感じていたことを明確に言語化してくれたような印象を持った。

 

「ニッポン入ってる」というのは、シェーデ教授が「ジャパン・インサイド」と呼んでいる戦略の転換を意味している。

かつての日本経済は、家電から自動車など高品質な製品を大量生産し、「メード・イン・ジャパン」というラベルが日本製品の優位性を象徴していた。だがやがて新興国が製造技術を習得し低コストで製造販売できるようになると日本の優位性は失われていく。この事態に直面した日本企業は徐々に戦略を転換していった。

日本企業はコモディティ化した製品から撤退して、先端材料、先進的な部品、製造機械、工場自動化などへ力点を移した。この結果、例えば半導体分野で日本企業は先端材料と製造装置で競争力を保持している。

こうした日本企業の優位性はメード・イン・ジャパンほど目立たない。「Japan Inside」のラベルはどこにも貼られていないが、日本製の材料や部品はあらゆるところに埋め込まれている。

 

こうした戦略転換を「失われた30年」の間にしていたのだ。あまりにも遅いというのが世の中の見方だろう。

だがシェーデ教授は選択の問題だという。日本は社会への打撃をできるだけ抑えるため、あえてスローペースを選んだ。その結果、現在の欧米で見られるような社会不安を引き起こすことなく産業構造の転換に踏み出すことができたという。ゆっくり組織的に進めたおかげで、日本の労働者は雇用制度の変化に、サプライヤーグローバル化に対応できた。

 

シェーデ教授はこう述べている。

”低成長をはじめ高い代償を伴ったが、スローは停滞とイコールではない。社会の不安定化の方が高くついたかもしれないし、遅いことが無能とは限らない。いずれにせよ日本は社会の安定を選択したのだ。”

 

そしてこうも述べている。

”米国を追いかけるのではなく、自分たちが長年の競争優位を持つ重要なバリューチェーンにおいて技術力で先頭に立つための独自の道を切り開いた。”

 

今、米国株が人気だ。規模や成長性で日本企業は米国企業に見劣りすると思われている。でも日本企業が米国企業と同じ土俵に立つ必要はなく、自分の強みを磨くことで独自の道を歩むことができる。

 

こうした見方は、日本株に投資し続ける私にとってとても心強い。

シェーデ教授は日本の隠れた実力を分析した「シン・日本の経営」という本を出しているので読んでみようと思う。