「哲学」というと難しい言い回しでよくわからないし、そもそも役に立たないと思っていた。だが世の中が大きく変化してきて、従来の考え方や仕組みではうまくいかないことが増えてくるとき、何か哲学的なものが必要になるのではないかと漠然と思っていた。ただ哲学書をいきなり読む気にはなれないでいたとき、この本を読んでみた。
著者である山口周氏の本は、以前に「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」を読んでいたので馴染みがあった。
時間のないビジネスマンにも要点がつかみやすいように構成されている。「人」「組織」「社会」「思考」それぞれのキーコンセプトを示し、哲学の使い方というのがわかる。読みやすくなっているのは著者が経営コンサルでもあるからだろう。
興味深かったのは「自由」についてだ。「自由からの逃走」の著者であるエーリッヒ・フロムは、「自由とは、耐え難い孤独と痛烈な責任を伴うもの」といい、その孤独と責任の重さに多くの人々は疲れ果て、自由から逃れて権威に盲従することを選んでいるという。自由から逃走しやすい性格を「権威主義的性格」といい、権威に付き従うことを好む一方で、「自ら権威でありたいと願い、他のものを服従させたいとも願っている」ような性格をいうらしい。つまりは強者に媚びへつらい、弱者に威張るような人間の性格をいう。パワハラ的な人間やレストランなどで店員に横柄な態度をとる人間が思い浮かぶ。
そうならないためにはどうすればいいのか。フロムはこう回答している。「自分自身でものを考えたり、感じたり、話したりすることが重要であること」、「自分自身であることについて勇気と強さを持ち、自我を徹底的に肯定すること」だと。
また、「自由が重たいもの」であることから、サルトルは「人間は自由の刑に処されている」という。多くの人は自由を行使することなく、社会や組織から命じられた通りに行動し、期待された成果を上げることが成功だとしているが、サルトルは「そんなものは重要ではない」と断言する。「自由であるということは、社会や組織が望ましいと考えるものを手に入れることではなく、選択するということを自分自身で決定することだ」と。
そして未来予測について。もし他人から「私の未来はどうなるでしょうか」と尋ねられたらどう思うだろうか。占い師でなければきっと「あなたは未来をどうしたいのか」と問い返すことになるだろう。未来というのは予測するものではなく、ビジョンとして想い描くべきものだという。アラン・ケイはこう言ったという。
『未来を予測する最善の方法は、それを「発明」することだ』
自分の未来は自分で作り出すしかない。言われてみれば当たり前だけど、言われないと気づかないこともあるのだ。そういう気づかなかったことに気づくきっかけにもなるような本だと思う。