今、ナシーム・ニコラス・タレブの「反脆弱性」を読み直している。昨年の年末から年明けにかけて一度読んだのだが、2月の株式市場暴落があったこともあり、もう一度じっくり読んでみようと思ったのだ。
タレブの文章の言い回しは独特で翻訳の影響もあるのかもしれないが読むと結構疲れる。でも2回目に読むとその内容が意外とすんなり入ってきて、とても面白い。
そのなかでも「七面鳥問題」の話は比喩としてとても興味深い。
その部分を引用するが、こんな話だ。
”七面鳥は1,000日間、肉屋に育てられる。1日がたつたびに、七面鳥アナリストは、肉屋が七面鳥を愛しているという「統計的信頼度」が高まっていると確信する。肉屋は、感謝祭の数日前まで七面鳥を育て続ける。そしてその日はやってくる。おいおい、七面鳥というのはどうやらあんまりいい身分じゃないみたいだぞ。「肉屋は七面鳥を愛している」という命題の信頼度が最大になり、七面鳥の人生が「非常に安定」していて、何もかも予測通りに進んでいたちょうどそのとき、肉屋は七面鳥をびっくり仰天させる。そして、七面鳥は今までの信念を改めるのだ。”
生まれたその日から七面鳥の人生は良い方向に向かっているように見える。毎日餌を与えられ、世話をしてもらえる。来る日も来る日も同じことが繰り返され、これからもずっとそうあり続けるだろうと強く予測される。だがそのときになって初めて、七面鳥は自分の運命を知ることになる。だがそのときにはもう手遅れで、打つ手はない。
これは我々人間にもあてはまることだ。
企業で働く会社員というのはまさにこの七面鳥になっていないだろうか。
日本経済は異次元緩和が続き、異常な状態が普通になっている。異常な低金利がこのままずっと続いていくと思っていないだろうか。
日本の財政は悪化し続けている中、「日本は財政破綻することはない」と自信満々に主張する学者や経済評論家がいるが、本当にそうなのか。今まで大丈夫だったからといって今後もそうだとはいえないだろう。
タレブはこの七面鳥の話から、「(有害性の)証拠がないこと」を「(有害性が)ないことの証拠」と勘違いしてしまうことに問題があると述べている。
七面鳥にとってこのサプライズはブラック・スワン的な事象でも、肉屋にとってはそうではないのだ。
投資をしているといろんな状況に出会う。先月の突然の暴落もそうだし、世界各国の政治にも翻弄される。だが、本当の危険は、安全だと思っているところにある。