投資狂日記

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成果主義と信賞必罰

世の中の物価が上昇し、賃上げが実現しないと経済が失速する懸念があるため政府も大企業も賃上げに前向きになっている。

 

この賃上げに向けて様々な障壁があるが、賃金制度もその一つに違いない。

日本企業では年功序列が当たり前だったが、成果主義への流れが加速している。この流れ自体はいいと思うが、一方で一部の外資系のような「昇進するか、さもなくば退職するか」といった従業員の出入りの激しい手法にも抵抗を感じる人は多いのではないか。

 

成果主義で思い出したのが「韓非子」だ。

韓非子」は中国の戦国時代に韓非によって書かれた思想書で、「矛盾」や「逆鱗」といった有名な言葉はこの「韓非子」が由来となっている。秦王政(後の始皇帝)はこの「韓非子」に影響を受け、中国統一を成し遂げた。

 

「信賞必罰」という言葉も韓非子から来ていて、これが現代の成果主義と似ている。

ある目標を定め、それを達成すれば報酬を与えたり昇進したりする一方で、達成できなければ報酬が減額されたり降格したりするのが成果主義だ。とても合理的だし、公平でもあるから年功序列よりいいと思われている。

 

韓非子」における信賞必罰はもっとシビアで、こんなエピソードが書かれている。

「韓の昭候がうたた寝をしているとき、冠係の役人は主君が寒かろうと衣服をかけた。やがて昭候は目が覚めると侍臣に、誰がこの衣服をかけたのかと尋ねた。冠係りだとわかると、昭候は、衣服係りの役人、冠係りの役人をともに処罰した。衣服係りの役人を処罰したのは自分の任務を怠ったからであり、冠係りの場合は自分の職分を超えた行為をしたからである。」

昭候は、役人が職務を守らないことによる害は寒さより甚だしいと考えたのである。

冠係りまで処罰されるのは驚きだが、法規は厳格に守られねばならず、万人が法規どおりに行動することで秩序が維持され社会が安定すると韓非は考えたのだ。

 

こうした韓非に対して、司馬遷は「史記」で以下のように評価している。

「法家は血縁の親疏を分かたず、貴賤を区別せず、もっぱら法律で裁断する。そうなると親をしたしみ尊をたっとぶ恩愛は絶たれる。一時的な策としておこなうには適当であるが、長く用いるべきではない。」

 

実際、始皇帝が「韓非子」の影響を受けて統一を成し遂げた秦王朝はたった15年で滅亡した。

厳格過ぎれば誰もそれについていけなくなる。成果主義も度が過ぎれば長続きせず組織が崩壊する可能性があると考えた方がいい。それに、成果を上げ続け評価され続けることに消耗しないでいられる人はそれほど多くはないのではないか。

 

だから、徹底した成果主義を採用する企業に投資するのには慎重になってしまう。業績の良さの背景に成果主義があるのなら、それが長続きするかどうかは重要なポイントではないかと思っている。