「静かな退職」という言葉が注目されている。
必要最低限の仕事しかしない働き方で、実際には退職しないものの心理的には会社を去っている状態をいうらしい。
私も会社を辞める直前には同じような状態になっていて、結局は本当に退職してしまったわけだが、仕事へのモチベーションを失う人はかなり多いのだろう。
この「静かな退職」に似たようなものが「働かないおじさん」の存在だ。存在感が薄いため「妖精さん」とも呼ばれたりする。
働かないおじさんは、必ずしも働いていないわけではないものの、働きに見合わない給与を受け取っているとしばしば批判されたりする。
ただ、一見「働かないおじさん」のようであっても実は優れたリーダーである可能性もあるのではないか。
例えば、日露戦争時に最高司令官だった陸軍の大山巌や海軍の東郷平八郎のような人物だ。大山は参謀たちが作戦会議をしているときも昼寝をしていたらしいし、東郷は極端なほど無口で存在感が薄かったという。まさに傍から見れば「働かないおじさん」に見える。ただ、彼らはあえてリーダーとしてそのように振舞っていたともいえる。というのも、二人とも薩摩出身であり、その薩摩にはあるべきリーダー像がある。それは優秀な部下を見つけて一切を任せてしまい、その部下の失敗はすべて自分が責任を負う。そして自らは能力をひけらかすようなことをせず、むしろぼんやりしているように振舞うのだ。部下が能力を十分に発揮できる場をつくるということなのだろう。
優秀な部下に仕事を任せ、責任だけは自分がとる。これを実行できる人はなかなかいない。
大山は負け戦になったら自ら一兵卒となって最後まで踏みとどまる覚悟でいたし、東郷も砲弾の飛び交う艦上に身をさらし戦艦三笠とともに沈むつもりでいた。
では、本当の「働かないおじさん」と「働かないおじさんにみえる優れたリーダー」を見分けられるものなのか。
おそらく、それまで培ってきた経験が醸し出す雰囲気や言葉の重みが違うはずだ。
ただ、こういう存在はきっと稀なのだろう。
あなたのそばにいる「働かないおじさん」はどうだろうか?