塩野七生著の「ローマ人の物語」でユリウス・カエサルの言葉が紹介されている。
「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。
多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。」
原文を直訳すると「人間は望むことを喜んで信じる」ということらしい。
今の世の中が、まさにこの言葉通りになっているのではないかと感じる。
SNSが普及して誰もが情報の発信者となれる時代となり、入ってくる情報も自分の関心がありそうな情報が次から次へと勝手に表示される。そしてその情報自体がどれくらい信憑性があるものなのか判別することすら難しいこともある。
そして接する情報は自分の関心のあるものばかりとなり、それに対する信用度がどんどん強化されていく。同時にそれに反するような情報を拒絶するようになり、さらには攻撃的になったりする。
こうして自分が望むことを喜んで信じるようになるわけだ。
そしてさらに進めば、こうした性質を利用しようとする人物が現れるのではないか。つまり、多くの人々が見たいと欲するような現実を見せて信じ込ませ、自分の有利な方向へ誘導していくことが起きるのではないか。
カエサルは人心の掌握に努め市民からの支持を得て元老院と対立し、ついには独裁官となって帝政への道を切り開くことになった。
カエサルが人心を掌握できたのは、人間が望むことを喜んで信じることを知っていてそれを利用したからではないか。
これと似たようなことが起きつつあるのではないか。
あるいはもうすでに起きているのかもしれない。
知らず知らずのうちに見たくない現実から目をそらし、状況が悪化しているのに気づかぬふりをしていることはないのか。
でもいつかは見たくない現実に直面することになる。
見たくない現実をいつまで見ないでいられるのだろう。