韓国ソウルの繁華街・ 梨泰院で発生した群衆雪崩による大事故は痛ましく、大きな群衆の力を制御する難しさを感じさせた。
この群衆雪崩という言葉で思い浮かんだのが近頃の仮想通貨についてだ。米国の金融引き締めが強化されるとビットコインをはじめとする仮想通貨の価格は暴落した。
コロナ禍での人気から一変して逃げ出す人が続出してそれこそ群衆雪崩のようになってしまった。
そんななか仮想通貨交換業最大手のバイナンスは、同業大手のFTXの事業買収で合意したという。FTXは顧客の資金引き出し急増によって資金繰りの問題が発生し、バイナンスが救済買収という形をとるらしい。
そういえば以前、このFTXという会社のテレビCMが盛んに流れていた。エンゼルスの大谷翔平選手も出演していたから記憶にある人もいるに違いない。他に2人の若者が出演していてその会話の内容がとても奇妙だったので、私はそっちの方が記憶に残っている。どんなやり取りかというと、こんな感じだった。
「暗号資産ってやってる?」
「いやー、よくわからないし。」
「興味はあるけどな。」
「周りもやってないしな。」
「誰かがやってりゃあな。」
資産運用について典型的な初心者の会話であることは確かだ。だけど奇妙に思うことがいくつもある。
まず、なぜ資産運用の手段として真っ先に暗号資産(仮想通貨)なのか。そして他にも金融商品はあるのに、よくわからない暗号資産に興味をもつ。さらに自分の周りでやっている人がいないか気になっていて、誰かがやっていたら真似してやってみたいというわけだ。
この会話内容には残念ながらもうすでに資産運用に失敗する要因が揃っている。
よくわからない投資対象に投資しようとしているし、自分自身がどうしたいかではなく、周りの目が気になっている。誰かがやっているからやるというのは、自分で責任を取りたくないという深層心理が根底にある。
仮想通貨は結局のところ他人の思惑しか存在しない。日常生活で他人の思惑に振り回されるだけでも疲れるのに、さらに仮想通貨取引で他人の思惑を気にしなければならないのではなおさら疲れるだけだ。
資産運用の世界でも混み合っているところには群衆雪崩の危険がある。裏を返せば、空いているところは心地よく過ごせるということだ。