京セラ創業者の稲盛和夫氏が死去したことが報じられた。
その優れた経営手腕や経営哲学から稲盛氏を師とする会社経営者は多い。信者といっていいくらいに心酔している人もいる。
私が税理士事務所に勤めている時、事務所の所長に「盛和塾」の会合に連れて行ってもらったことがある。「盛和塾」は稲盛氏の経営哲学や経営手法を学ぶ勉強会だ。中小企業の経営者同士が熱く議論していて、なにがそんなに惹きつけるのだろうと不思議に思ったものだ。
そしてさらに稲盛氏に興味を抱いたのはこの本に出合ったからだ。
経営者で会計がわかる人というのは実は少ないのではないか。中小企業ではほぼ皆無といっていいような気がする。そんな状況のなか、この本の帯には「会計がわからんで経営ができるか!」と書かれていた。私は会計を学び、税理士事務所で中小企業の実態を見てきたので、経営者が会計をどのように捉えているのか非常に興味があったのだ。
そしてこの本を読むと、会計を学んだ者からしてもハッとさせられることが多い。そして経営のための会計とは何かという本質を追求する姿勢に驚かされる。稲盛氏は技術屋で会計には全く疎かったにもかかわらず、経営にとって会計が重要であることを身をもって示した。
稲盛氏を師として仰いでいる経営者でも、稲盛氏ほど会計を重視している人はいないのではないか。日本航空を短期間で再生させたのも会計を重視して採算が採れているかどうかをはっきりさせたことが背景にあると私は思っている。
そして稲盛氏の人柄も人を惹きつける。日本航空の再建に目途が立つとあっさり後継者に道を譲ったが、見事な引き際といっていい。自分が経営者として居座り続けるのではなく、経営哲学を浸透させてそれを会社全体で継続していくことのほうが重要だとわかっていたのだろう。日本航空では稲盛氏の残した「フィロソフィー」が今も継続して残っているという。
「虎は死して皮を留め人は死して名を残す」ということわざがある。
虎は死後その皮を永く残して珍重され、人は死後その偉業によって名が語り継がれる、という意味だ。
稲盛氏はかかわった企業に多大な偉業を残していったが、まさにそれによって名が語り継がれることになるだろう。