この秋は政治に振り回されることが多くなりそうだ。
衆院選を前に、岸田首相が意欲を見せていた金融所得への課税強化を先送りにした。「聞く力」を発揮して市場の声を聞いたのだろうが、口に出したことをあっさり引っこめるところに芯のなさが垣間見える。投資家にとっては一先ず安心できることだが、選挙後にまたあっさりひっくり返すかもしれないので、岸田首相の言葉の軽さには気を付けておきたい。
金融所得への課税強化は市場から強烈な反発を喰らったわけだが、もう一つ気になることがある。現在、上場企業は四半期ごとに決算情報を開示しているが、岸田首相がその「四半期開示」を見直すことに言及したことだ。
「四半期開示」を見直す理由は、企業や投資家が四半期開示によって短期的な利益を求めがちになり、長期的な視点に立った投資がおろそかになっているということらしい。こうしたことが企業の競争力を失わせていることにつながっているというわけだ。
企業が長期的視野に立って投資をすることはもちろん重要だ。だがそれを促すために四半期開示を見直すというのはちょっと視点がズレているように感じる。投資家からすれば、適切な情報開示がなければ企業の長期的投資の進捗状況がわからないし、新たな投資を呼び込むことにもつながらない。仮に四半期から半期へと情報開示を減らしたとして、本当に企業が長期的な投資を積極的に行うようになるのだろうか。業績開示の頻度と企業の投資行動に関連があるとは思えない。
四半期開示が経理担当者の負担になっているということはあるだろう。私も経理の人間だったから決算の大変さはよくわかる。ある四半期決算が終わると、もうすぐに次の四半期決算がやってくるのだ。
だが重要なのは情報開示の頻度を減らすことではなくて、情報の中身なのだ。海外では四半期開示の義務を撤廃した国もあるが、それでも企業は任意で四半期開示をしているという。情報開示がいかに大切かということがわかる。
岸田首相が四半期開示の義務を撤廃したとしたら日本企業はどうするだろうか。これ幸いとばかりに情報開示を後退させるのだろうか。もし情報開示を後退させるなら、そういう企業に投資家たちは厳しい目を向けるに違いない。そしてそういう企業はいずれ衰退していき市場から退出していくだろう。
なるほど、もしかしてこれは企業に対して情報開示への態度を試す「踏み絵」ということなのか。これが岸田首相の深慮遠謀であるなら恐れ入る。
さて、四半期開示についても「聞く力」を発揮してあっさり引っこめることになるのだろうか。